オートマトン

交通事故で入院していた結が、機械の体を引っさげて、私の前に姿を表した。

「寝たきりは嫌だから、機械の体にしてもらったよ」

交通事故で長い間入院していたことは知っている。だけど、寝たきりになるほどの事故だったなんて初耳だ。結はいつもそう。重要なことはいつも、終わってからじゃないと伝えてくれない。

機械の体にした、なんてことも当然、初耳だ。いつも通りといえばいつも通りなんだけれど、伝えて欲しかった。変わり果てた結の体を見ると、そう思ってしまう。

機械の体といっても色々あるけれど、結のそれは、普通のものとはかなり違っていた。チンパンジーのようにがっちりとした腰回りに、バネのようにしなる細い脚。人に似ているけれど何かが違う、そこはかとなく不気味な造形に、目を背けたくなる。

「元の体にはエラーが多すぎたから。どうせ機械の体にしちゃうんだし、色々付けてもらっちゃった」

考え込む私を尻目に、あっけらかんとした口調で話す結。いつも通りだ。変わったのは外見だけ。中身は、変わってなんかない。結が帰ってきたんだ。

そうだ、一緒にとろけちゃおう。今まで寂しかったんだもの。

「ひゃっ」

触れた舌の冷たさに、思わず声をあげてしまう。

「冷たかったかな。ちょっと待ってね」

ジジジ、ヒーターが動く音を聞きながら、舌が温かくなるのを待つ。知らない人と雨宿りをする時のようで、なんだか落ち着かない。

「これで大丈夫」

乗せられた舌は、温かく、やわらかい。けれど、匂いは、精密機器のように味気ない。二人が一緒に溶け合った、甘くとろけるあの香りは、匂わない。

舌の動き、顔を離すタイミング、全部が結とまるっきり同じ。なのに、何か違う物と触れあっている気持ちになる。結が、得体の知れない何かに見えてくる。

「やめて!」

なにもかにもが分からなくなって、とっさに「何か」を押し飛ばす。「何か」が、きょとんとした顔でこっちを見つめてくる。

その瞳にみつめられるのが怖くて、一目散に逃げだした。