ぬいぐるみ

「ご予約は……されてないですか。ここ最近はご予約の方限定でやらせてもらってるんで、予約がないとダメなんですよ」

楽しみにしていた旅行先に行けなくなり、Xは落胆していた。

「まさか予約が必要になってたなんてね。まあ、仕方ないよ。少し早めに宿に行こう」

Yの励ましが届いたのかどうかはわからないが、Xはコクリと頷いた。

宿には予定よりも少し早く到着した。夕飯まで少し時間がある。どこか遠くに行くには短いが、ただのんびり過ごすには長い。観光地だし外に何かあるだろうと、二人は宿の近所を散策することにした。

通りに並んだ店はすでに閉まっており、切れかけの電灯と、ちらほらある旅館の窓から漏れ出る光だけがかろうじて道路を照らしている。Xが宿に戻ってもう寝てしまおうかと考え始めた時、Yはまだ空いている店があることに気がついた。

その店は、観光地にならどこにでもあるような、寂れた見た目の土産屋だった。入り口の窓ガラスからは、木刀や伝統工芸品といった、観光地の土産屋にありがちなものばかりが見える。

「このまま宿に戻るのもなんだし、どうせなら入ってみようよ」

Yの一言で土産屋に入ってみるも、観光地ならどこでも売っている「ご当地キーホルダー」や、地元の職人が作った手彫りの熊がぽつぽつと並んでいるだけで、特に目を惹くものはない。 そろそろ出ようと言い出そうとした矢先、二人はあるぬいぐるみに目を奪われた。

ピンク色の毛並みを持つイルカがモチーフでピンクの毛並みを持つそれは、長い間陳列されているのか、うっすらと埃をかぶっている。 土産屋というよりはむしろ寂れた遊園地においてあるようなぬいぐるみを見て、なぜか二人ともこのぬいぐるみが欲しいという気持ちになったのだった。 場違いなそのぬいぐるみを買うのも面白いかもしれないと思ったのかもしれないし、天気予報が外れて予定していた観光地に行けなくなったから何かしておきたいという気持ちがそうさせたのかもしれない。

土産屋を出ると、他の店はすでにみんな閉まっており、切れかけの電灯と、ちらほらある旅館の窓から漏れ出る電灯の光だけがかろうじて道路を照らしていた。二人は、旅館へ帰る道を静かに歩いた。

「こんなのを買うのも旅行って感じだよね」

静けさに耐えかねて、Yがぽつりと呟いた。その顔は、ぬいぐるみと同じ曖昧な笑みを浮かべていた。

Xは、返す言葉を見つけられなかった。

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