「最近の家電はスゴくてさ……」
典型的な給与所得者めいた外見の男が、虚空に向かって話しかけながら、割れたグラスを傾ける。赤く濁った液体が、男の口に雪崩れこむ。
床には、割れたガラスやら動物のフンやらが散乱し、饐えた臭いで満ちている。所々にある壁の亀裂から、粉塵に塗れた風が吹き込んでいる。男は、そのような事を気に留めず、独り楽しく談笑している。
「ふぅん。それじゃあ、誓いのチュウでも……そっちがするんかい!」
男がニタリと笑いながら、割れたガラス瓶に向かって手刀を叩きこむ。ガラス瓶の鋭利な破片が、男の腕を切り刻む。
「そんなに怒らなくてもいいじゃんかぁ」
猫撫で声で、男が叫ぶ。腕から血が流れ出ていることに気づく様子は無い。
壁に貼られた、日に焼けたポスターが揺れている。