パルク

ここは何処だろう。空が青くギラついていて、眩しい。周りにはドア一つすら見当らない。目の前には、テラテラと光る甲冑が獲物だ!自慢の足で、ほぉら、捕まえた。ガブリ。あたしの毒で、もうキミは動けない。むしゃむしゃ。おいしいなぁ、おいしいなぁ

「こらキミ、起きなさい。授業中ですよ」

デコアタマが私の顔を引っ叩く。タブレットを読む以外、何もできないクセに。あたしの可愛い顔が傷付いたらどうしてくれるんだ。

あの夢は、なんだったんだろう。


「はい、これ誕生日プレゼント!パルク、行きたかったでしょ?」

パルクには、小学校の修学旅行で連れていかれたことがある。事前学習やらで、進化に囚われていた頃の生物は様々な姿をしていたとかなんとか、方眼紙に書かされたことしか覚えてないけれど。

だけど、ミリアが『誕生日プレゼント』をくれるときはいつも、しょうもないことに付き合わされるときだと決まっている。どうせついていったって、碌なことにならない。彼女は楽しんで、私は焦燥するだけ。あの時は本当にヒドかった。

「きっと、今回も面白いから。ほら、行くよ!」

あなたにとって面白くても、私にとっては災難なんだぞ。こんな声を荒げたくなる気持ちを抑える。この状態のあいつに何を言ったって無駄。そう自分に言い聞かせて。私も少し、丸くなっちゃったかも。


「ニューズー・パルクへようこそ。最新の技術によって再現された、旧生物達の姿を是非お楽しみください」

古さびた自動音声が私達を歓迎してくれる。受付のオバサンの慣れ慣れしさも鼻に付く。小学生の頃に来たときは、もっと栄えていた気がするけれど、教育施設はこれくらい寂れていて当然なのかもしれない。

エントランスを抜けた私達を出迎えたのは、所狭しと並ぶ檻。そして、檻の中に居る、様々な形の機械達。古い記録映画で見たことのある景色だ。確か、生物の密輸がテーマだったっけ。

「これが昔の生物だったんだって。スゴくない?」

檻の中で蠢く、ビニール袋のようなそれを指差しながら、ミリアは笑う。解説には、生物の一部はこのような姿で海を漂っていたと書いてあるが、真実かどうかは疑わしい。

「うわっ、首長すぎこっちはヌラヌラしてる」

童心に帰ってはしゃぐミリア。誰のデザインなんだろうとか、余計なことを考えている私とは正反対だ。

あれ、この檻には何も居ない

「あぁ、その子ですか。足が多くて不気味といった苦情が多かったもので。アニマトロニクス節約のためにも、展示を取り止めたんです。不気味といっても、生物そのままの姿なんですけどね」

飼育員と思しき人が、禿げかかった頭をこちらに見せた。申し訳なさそうな声色とは裏腹に、その姿に感情は無いような気がした。


「もし、あたしがあの檻の中に閉じ込められていたら、どうしてた?」

ミリアは、いつもは能天気にしているクセに、時々ピリリとした気持ちになる。こんな時、私にできることはただ一つ。それは、別の気持ちで満たしてあげること。こんな私が、すごく陳腐で、すごく滑稽で。だからこそ、少し歯痒い。

「いつも同じだね。あたしのことをはぐらかして。でも、その方が落ち着くの。どうしてかな」

ミリアはいつも、こういって私を励ましてくれる。その優しさが、心地良い。ちゃんと律してあげないといけないのは分かっている。けれど、この心のめまいに、もう少しだけ浸らせて。