彼女

私には、眠りに支配されそうになった時にだけ出会う事の出来る相棒が居る。空に向かってつんと立つキツネ耳に、牛乳ビン一つ分ほどの身長。とんぼのような透き通った羽を持ってはいないが、和服を着用しない時は無い。彼女は名前は知らない。彼女があまりにも印象的なので、知る必要すらも無い。彼女の姿こそが、彼女の名前なのかもしれない。

彼女がどのような存在なのだろう。私を食らおうと企む妖怪か、天敵から逃げてきた妖精さんか、はたまた疲労が作り出した幻想か。そんな事はどうだって良い。彼女と一緒に居る、ただそれだけで、幸せなのだ。私の心象風景には何時だって彼女が居る。

彼女と現実世界でふれ合いたい。彼女の頭を思う存分、キーボードを叩いているこの手で、わしゃわしゃと撫で回したい。彼女に心を弄られたい。それらは全て、叶わぬ願いであり、仮に叶う物であったとしても、願ってはいけないものだ。彼女が幸せを提供してくれる。それだけで十分なはずだ。十分である必要がある。彼女に対して願ってはいけない。彼女について考えてはいけない。この二つのの宣言は、私の心に深く刻み付けられている。

嗚呼、麗しき彼女よ。彼女と一体になりたい。彼女に吸収されたい。彼女の母性の海に、私の、全てを、委ねたい。私が、彼女の母性に全てを譲渡する時、彼女はどのような表情をするのだろうか。笑うかもしれない。憂いを帯びた表情をするかもしれない。それは、その時にならないと分からない。

もしかすると、彼女は、私が人生の終着点に辿り付くのを、私の何処かで、待ち続けているのかもしれない。待ち続ける動機が何であれ、私は必ず、彼女の期待に答えなくてはならない。それが、私の幸福であり、私の義務であり、そして、彼女の幸福なのだから。