空を舞う

外苑に住んでいる者達にとって、メトロポリスは憧れの存在であり、数少ない娯楽である。そんな中、上流階級の者達が住む、気取ったメトロポリスが、空をもその制圧下に置いたという事を小耳に挟んだ。その光景を一目見ようと、深夜、私達は、メトロポリスに向けて、藍色に光るその筐体で走りだす。

私達を、メトロポリスへ誘うその道は、コンクリートで舗装されていた。道を流れる血液達は、舗装を削りながら、その使命を全うする。メトロポリスの物ではない、古びたスピーカーは、ご機嫌なナンバーを流している。非日常感漂う光景は、筐体だけでなく、我々の気質すらも震わせていた。

既にメトロポリスへ到着している、その事実に気づいたのは、地を這っていたはずの道が、空に向かう橋になっている事に気付いた時だった。


この天界への階段の周りを囲むのは、屍達が住みつく摩天楼達。これら文明の排泄物は、眠る事を忘れたかのように光を湛え続けている。外苑から見た光は、文明の幻影でしかなかった事に気付いた時、憧れは失望へと生まれ変わる。

メトロポリスは眠らない。蜃気楼が消える事が無いように、文明の幻影は、永遠に彷徨い続けるのだ。