「きっと上手くいく、きっと」
画面の薄暗い光に照らされながら、男が呟く。男の周りには、大小様々なケーブルが複雑に張り巡らされている。まるで蜘蛛の巣のようなそれの中に、一度入ってしまえば、その中から出ることは永久に叶わないだろう。
端末の上を忙しなく行き来する男の手が、突如として静止した。それに呼応して、ケーブル内の空間が、何らかの形を作りだす。その形は、蜃気楼と呼ぶにはあまりにも明瞭で、生物的で、そして女性的だった。
「遂に、やっと……」
現実よりもビビッドな幻影を眼前にして、男は感激の涙を流し、面前に現れたそれに、思いの丈をひたすらに押し付ける。彼女はその戯言ひとつひとつを、ただただ真摯に聞き続けていた。
夜が明らむころになっても、男は語りを止めなかった。まるで、壊れたレコードのように、延々と同じ話を語り続ける。その声はかすれ、目は血走っている。
「お疲れさま、ゆっくりお休みなさい」
幻影がすっくと立ち上がり、男の首を締めつける。締められるはずのない首が、はっきりとした感触を持って、締めつけられていく。自らが作り出した幻影に殺される、そんな状況下であっても、彼は語りを止めない。
「ありがとう……ありがとう……」
語る言葉は、終わることの無い感謝だ。彼は狂っていた。