風鈴の清らかな音色に目が覚める。空が紅い。知らないうちに、長い昼寝をしたらしい。気付けにと、ぬるくなったカルピスを喉に流しこむ。汗ばんだ体を撫でるそよ風が心地良い。
キッチンからは、小気味良い包丁の音と、食品の煮込みたつ香りが漂う。ああ、お腹が空いた。
「今日の夕飯は██じゃ。もう少しだけ待っておれ」
キッチンから声が聞こえる。腹の虫の音が聞こえたのだろうか。だとしたら、恥ずかしい。
麓では、米粒のように小さなたくさんの灯りが、縦横無尽に蠢いている。食料を運ぶ兵隊アリのようなそれを、一粒つまみ、ぷちりと潰す。中から赤い液体が、とろりと流れだす。その味は、ぬらりと光り、苦く、そして苦しい。
突風が吹く。兵隊アリの抜け殻は、風に乗って飛んでいく。向かう先には、木々が鬱蒼と生い茂る。
ふと顔を上げる。空は山吹色に輝き、雲は斑模様を形作っている。初めて見る、どこか優しい景色だ。
なにか、大切なことを忘れている気がする。
「もう少しだけ、待っておれ」
ふつと意識が途切れる。風鈴の音が聞こえる。